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9月30日セミナー「M&Aを経験した社長達が語る自らのM&A」(第三回)報告

「M&Aを経験した社長達が語る自らのM&A」第三回目、テイラー株式会社の代表取締役であられる柴田 陽様をお招きし開催しました。起業における体験談から「M&Aはあくまで手段のひとつであり、事業やプロダクトをより良くするための手段のひとつ」といったシリアルアントレプレナーならではの見方を含め貴重なお話をいただきました。

Concerto Partners(以下、Concerto):みなさん、こんにちは。毎月末の金曜日に開催するウェブセミナー『M&Aを経験した社長達が語る自らのM&A』の第3回目となります。

このセミナーでは「M&Aで自らの会社を譲渡した経営者」をゲストとしてお迎えし、なかなか出てこない譲渡する側の生の声をお届けしたいと考えております。

本日は、テイラー株式会社の代表取締役社長の柴田陽さんをお迎えしました。柴田さん、よろしくお願いいたします。

柴田様(以下、柴田(敬称略)):よろしくお願いいたします。

Concerto:早速ですが、簡単に自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか?

柴田:はい、みなさま本日はよろしくお願いいたします。テイラー株式会社の柴田と申します。現在は、企業が自社にテイラーメイドされたERPをローコードで構築できるSaaSの事業をやっております。

Concerto:柴田さんはテイラーに至るまで、何度か起業やExitを経験されていますが、これまではどんなことをされていたのですか?

柴田:最初は学生時代に起業し、その会社は結果的にSEOの会社になりました。当時はちょうど「Web2.0」という流れが生まれた頃で、APIやブログといったキーワードが飛び交っていましたね。その後、新卒で外資系コンサルティングファームに入りました。

Concerto:その頃ですと、ネットベンチャーの第1世代は上場も果たし、次のフェーズを目指す時期だったと思います。学生時代に起業されたご経験から、ネットベンチャーに行こうという選択肢はお考えにならなかったのでしょうか?

柴田:うーん、自分としてはまだ「これだ!」という確固たるものがなく、いろいろな業界のプロジェクトに携われるコンサルティングファームを選んだというところでしょうか。

Concerto:なるほど。その後、再び起業の道に進まれたわけですが、その経緯をどういったものだったのでしょうか?

柴田:コンサルティングファームで3年ほど働いた頃、iPhoneが登場したんですね。それでふと思いついて、バーコード価格比較アプリ『ショッピッ!』というプロダクトをつくりました。お店に置いてある商品のバーコードを読むと、違う店舗やECでの価格情報が入手できて、最安値で購入できるというものです。

今ではiPhoneアプリで人気ランキングに入るのは大変ですが、当時はまだiPhoneが出たばかりで、アプリをつくっている会社も少なくてあっという間に登録者が増えました。

Concerto:ご自身でつくられたのですか?

柴田:自分で仕様を決めて、タイ人のエンジニアに開発してもらいました。非常に安価にやってくれて助かりました(笑)

Concerto:いきなり海外での開発、すごいですね(笑)

柴田:当時所属していたコンサルティングファームには長期休暇のような制度があり、それを利用してそのアプリの事業に集中していました。世の中的に徐々にスマホシフトの流れが強くなってきて、縁があってIMJに譲渡しました。

Concerto:その後はしばらくIMJで働かれたんですか?

柴田:いえ、事業を譲渡しただけです。『ショッピッ!』は実質的に私一人で運営していたこともあり、「組織として統合しなければ」みたいな話もありませんでしたので、事業といいますかアプリを譲渡して、という感じでした。

Concerto:そこからすぐに再び起業されています。

柴田:『ショッピッ!』はお店としては必ずしもうれしいことではないわけですよね。他店と価格比較されるわけですから。そこで次はお店が喜ぶプロダクトをつくろうと考えて、来店を促進する『スマポ』を立ち上げました。お店に来るとポイントが貯まるというプロダクトです。

Concerto:お店に来るというのはどうやってカウントされたんですか?

柴田:専用のハードウエアを開発して、お店に設置してもらいました。そのハードウエアでカウントしていました。

Concerto:けっこう投資がかかりますね。

柴田:そうですね、『スマポ』は人や設備にもしっかり投資して運営していました。エンジニアだけではなく営業も雇って、組織としても30人くらい、導入いただいたブランドで50ブランドほどの規模になりました。

Concerto:ベンチャーキャピタル等からの出資も受けられていたんですか?

柴田:はい、受けていました。

Concerto:その『スマポ』は楽天に譲渡されるわけですが、これはどういうご判断だったのでしょうか?

柴田:プロダクトは支持されてお客様は増えていたのですが、ポイント業界にはTポイントや楽天ポイントのような大手企業が既に存在していました。自分たち単独でこの事業をさらに成長させるのが良いのか、それとも他社と組んで成長させるほうが良いのかを考えた結果、後者を決断しました。

Concerto:譲渡の際にはM&Aアドバイザリーは利用されたんですか?

柴田:当時はまだ今ほどM&Aアドバイザリーが一般的ではなかったのと、ポイント業界は狭い業界なのでお互い面識があったのとで、直接進めました。お互いの事業シナジーもありましたし、経済的条件もしっかりとご評価いただいたと感じています。

Concerto:楽天はM&Aのノウハウが豊富にあるという印象があります。

柴田:そうですね、ノウハウは素晴らしいですね。私たちが譲渡するタイミングで100社ほどM&Aされていたので、想像以上にスムーズに進みました。PMI(M&A後の事業統合)も担当者レベルでシステム化されていましたね。

Concerto:譲渡後、なにか変わったことはありますか?

柴田:当時、楽天が新しいポイントサービスを立ち上げるタイミングだったので、楽天側のスタッフも一緒になってプロダクトと事業を再構築し始めました。

Concerto:オフィスはどうされたんですか?

柴田:良い質問ですね。オフィスは別にしたのですが、今から思えば早く楽天側のオフィスに入れば良かったと反省しています。これからプロダクトも事業も組織も統合していくわけですから、人的な交流を増やす意味でもオフィスは一緒にすれば良かったなぁ、と。

Concerto:過去にセミナーにご登壇いただいた経営者の方も、オフィスについては意見が分かれますね。PMIをスムーズにするためにも早くオフィスを一緒に、という方もいらっしゃいますし、スタートアップとしての組織文化を保つためにも別にする、という方もいらっしゃいました。

そこらへんは、M&A後に完全子会社として運営するのか、譲受(買い手)側の事業にマージして運営していくのかによっても判断は異なるような気がします。

柴田さんご自身はしばらく楽天でマネジメントをされた後に会社を去るわけですが、社員の方の反応はいかがでしたか?

柴田:M&A時に説明していたので、落ち着いていましたね。私がいる間にしっかりと引き継ぎをして、ということをみんなわかっていましたし。

Concerto:ストックオプションを付与されていたと思いますが、ここはどうされたんですか?

柴田:ストックオプションの問題は難しいですよね。ステークホルダー間でコンフリクトが起きるし、税制の話もある。個別企業としてのケースというよりも、全体の制度設計という観点から(スタートアップ)業界における課題として包括的なソリューションが提示されてもよいかと感じています。私たちの場合は、一部私個人の資産から払ったりという感じでした。

Concerto:そして現在はテイラー株式会社を創業されています。ここに至るまではどのようなことを考えていらっしゃったのでしょうか?

柴田:『スマポ』から6年ほどたっての起業となります。『ショッピッ!』から『スマポ』は、ある意味で同じ領域で勝負していたわけです。リアルの小売店舗とECやネットを繋ぐような領域といいますか。

その領域での事業が一段落して、自分の中では「次に勝負すべき領域」をずっと探していた時期でした。その中で、クラウドやSaaS、ローコードやノーコードという時代の流れを感じて創業したのがテイラーです。

Concerto:私たちもクラウドやSaaSの領域の起業からご相談を受けることが多いのですが、おっしゃった流れは不可逆だと感じます。

M&Aからすこし話は離れるのですが、テイラー社はY Combinator(以下、YC)に採択されています。YCはスタートアップを様々な角度から支援するシリコンバレーの組織で、AirbnbやDropboxなど世界的に成功した企業を多数生み出しています。

YCに採択されたメリットというのはどういうものがあるのでしょうか?

柴田:よく聞かれるのですが、突き詰めると2つかなと考えています。ひとつはブランド、もうひとつは人的ネットワークです。

ブランドはシンプルで「YCに採択されました」といえば、初見でも興味を持っていただいて話を聞いてくださいます。これは何もないスタートアップにとっては大きいですよね。

そしてもうひとつ、YCは通常のベンチャーキャピタルと異なり、実際に自分で起業して成功した経験者が、スタートアップを支援します。「やったことのある」人たちと「挑戦している」人たちのリアルなコミュニケーションや知見というのは、他ではなかなか得難い。さらに、YCの人・YCから羽ばたいた企業・YCでスタートアップしている企業を含めて、YCの人的ネットワークにすぐにアクセスできるんです。ここで得られる知見は非常に大きく、本当に勉強にもなるし助かっています。

Concerto:グローバルにトップ層のプレイヤーが集っているわけですからね。ご自身の中では、テイラー社創業は「満を持して」という感じですか?

柴田:そうですね、イシューもペインも多く、市場も大きい。ホームラン打とう!と思って頑張っています。

Concerto:今はどんなフェーズなんですか?

柴田:まさにスタートアップという感じです。日々いろんな課題に直面するといいますか(笑)

Concerto:いちばん楽しい時期ですね!ここで視聴者の方からご質問を頂いています。「柴田さんはどのように事業のアイデアを見つけているのですか?」というご質問ですが、いかがでしょうか。

柴田:それでいうと、先日YCの人に聞いたことが参考になりました。その人曰く、「シリーズAを終えた企業のサービスを調べ尽くせ」と。

シリーズAを終えているということは、基本的には市場は見つけていて、その市場にプロダクトを投入している。つまり、「そのプロダクトの市場は存在している」ということがある程度証明されているわけです。

ところがリソースも限られている中、オペレーションが追いついていないスタートアップが意外に多い。シンプルな例でいえば、問い合わせてもなかなか返信が来ないとか。起業直後はプロダクト開発や営業、マーケティングに注力するのに手一杯で、オペレーション構築が後回しになることが多い。でもそれだとせっかくのリードのお客様や既存顧客は離れていくわけです。

そのようなスタートアップを見つけて、そこを追い抜くような事業の作り方もあるよ、と言われました。そのプロダクトの市場はあるんだから、その市場で見つけた顧客を一社ずつ大切にして事業を大きくしていく、ということです。これは納得したといいますか、示唆に富んでいると思います。

Concerto:それは具体的でイメージの付くご指摘ですね。今日は起業の話が多くなっていますが(笑)、最後に視聴者のみなさまにM&Aに関してのメッセージがあればお願いします。

柴田:M&Aはあくまで手段のひとつですよね。ご自身の事業やプロダクトをより良くするための手段のひとつ。以前と違ってM&Aも認知が広まってきているので、情報は取りやすいわけです。事業をより良くする手段のひとつとして、アンテナは張っておくのが良いと思っています。

Concerto:本日は貴重なお話、ありがとうございました。テイラー社のホームラン、応援しております!

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